「谷崎潤一郎『細雪』論―鶴子を視座として―」の発表を終えて

発表では、蒔岡四姉妹の長女でありながら、作中での影が薄い鶴子に焦点を当て、本作における鶴子の役割を幸子、雪子、妙子の描かれ方と比較し考察した。本作の作中時間(1936年〜1941年)において、健康的な子どもを生み育てるためには「若さ」や「健康さ」を備えた女性が理想的であると考えられていた。鶴子は実年齢よりも「若く」見え、六人の子どもを生み育てながらも衰えることのない「健康」的な肉体を所有している。三人の妹たちは「若さ」という美点を有しながらも、「健康さ」からはほど遠い人物として描かれている。そして、物語の進行とともに三人の妹たちはそれぞれの幸福を手にしていくが、理想的な女性として描かれた鶴子の生活は衰退の一途をたどることとなる。その原因として、時代の要請、周囲の環境に影響され自らの生き方を変化させていく鶴子の弱さを指摘した。幸子、雪子、妙子の振る舞いは時に時代にそぐわず、他人や家族の迷惑を省みないものである。しかし、その強さがあったからこそ彼女たちは鶴子のような境涯に陥ることはないのだと結論付けた。

質疑応答や懇親会では、「若さは、谷崎作品において女性の美しさを形容するものとして繰り返し登場するため特別視することはできないのではないか」、「四姉妹が持って生まれた素質としての若さの意味に注目すべきではないか」、「鶴子と三人の妹を対比させるのではなく、母親似である鶴子、雪子と父親似である幸子、妙子とを対比させてみてはどうか」、「作中人物同士のやりとり(お互いの生き方に対しどのような考えを抱いているか)に注目してみてはどうか」、「本当に鶴子の未来は暗いのか」など数多くのご指摘をいただきました。本作の作品分析を始めた時は、鶴子を評価したい(肯定的に解釈したい)と考えていましたが上手くまとめることができず、今回のような結論に至りました。今回いただいたご意見、ご指摘をもとにもう一度鶴子について考察していきたいと思います。

最後になりますが、今回はじめて本研究会に参加させていただきとても楽しく有意義な時間を会員の皆様と過ごせたことを心より感謝いたします。本研究会は今回が最後となりますが、また新たな機会、場所で谷崎作品についてお話できることと信じております。本当にありがとうございました。【小林珠子】




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